最近ネットの世界で「自炊」という言葉をよく目にします。本来は「自分で炊事すること」を意味しますが、ネットで「自炊」と検索すると、上位に表示されるのは雑誌や書籍のスキャニングと電子データの取り込みに関するサイトばかりです。なぜこれらの行為が「自炊」と呼ばれるようになったのでしょうか?元々は、「自分で電子化したデータを機械に吸い込むこと」、すなわち「自吸い」が語源で、それが「自炊」に転じたようです(参考:wikipedia 「自炊」)。
今やスケジュールやデータを電子管理することが当たり前となり、本もKindleやiPadなどの電子ブックリーダーで読める時代となりました。しかし日本ではアメリカなどと違い、書籍の出版はまだまだ紙媒体のみで、電子データでの販売は多くありません。また紙媒体の書籍はため込むといつの間にか膨大なスペースを占領します。そこで、読書の利便性向上と保存場所の省スペース化を兼ねて、自らデータの電子化を試みるユーザーが増え、それに伴いスキャニング代行サービスが登場しました。
自ら私的に楽しむために紙媒体の書籍を裁断しデータを電子化して機器に複製することは、著作権法30条1項の私的使用目的の複製に該当するため、法的に問題はありません。では、自炊代行サービスのように他人が電子データを複製することについてはどうでしょうか?9月5日に、出版社7社、作家・漫画家122人が『自炊業者』に質問状を突きつける、という事件が話題になりました。自炊代行サービスのどこに問題があるのでしょうか?
それは、著作権法30条の「その使用する者が複製することができる」という言葉に鍵があります。電子データとして複製する主体は、あくまで私的使用目的で使用する本人でなければなりません。代行業者は書籍の裁断代行までは問題なく行えますが、そこから先のデータのスキャニングおよび取り込みまで代行してしまうと、著作権者から許諾を得ていない限り、著作者の複製権を侵害することになります(この件はその後出版社からの質問状に対し、自炊業者の86%が「スキャン事業は行わない」と回答しています)。
その辺りに配慮し、最近は店内にPCとスキャナを設置して裁断以降の作業をセルフサービスとする業者も現れました。本来であれば、レンタルビデオ店に置かれたダビング機のような「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合」は、著作権法第30条1項1号の私的使用目的として認められる複製から除かれています。ですが書籍のためのスキャナは、コンビニのコピー機と同様に、著作権法の附則5条の2の「当分の間、30条1項1号の『自動複製機器』には、『文書又は図画の複製に供するもの』は含まないものとする」ケースとして考えられているようです。
ところで、会社においても資料の電子化によって社内スペースの節約を検討している方もいらっしゃると思います。その資料が社内で作成された職務著作物であり著作権が会社にある場合は問題ありませんが、購入した書籍や雑誌など他人の著作物である場合、会社の業務における使用は著作権法30条の私的使用目的の複製に該当しませんので、複製には著作者の許諾が必要です。これまで社内における書籍や雑誌のコピーに関しては、複写権センターや出版者著作権管理機構といった団体が企業と包括契約を結ぶなどして複製を許可してきましたが、スキャニングや取り込んだデータの共有に関してはまだそのようなシステムはなく、今後の対応が待たれるところです。